伝統工芸について

伝統工芸品・伝統的工芸品・民芸品の違い!それぞれの意味と定義(手芸品・美術品なども)

「伝統工芸品」「伝統的工芸品」「民芸品」――。

どれも主に手仕事による用品等を表す言葉ですが、その意味や使われ方にはそれぞれ違いがあります。さらに「手芸品」や「工芸品」「美術品」「美術工芸品」といった言葉も加わると、どこまでが伝統工芸品で、どこからが芸術分野なのかなど、その区分で混乱する方は多いでしょう。

特に、「伝統的工芸品」という言葉には法律で定められた正式な区分があり、一方の「伝統工芸品」や「民芸品」などの言葉は文化的・歴史的な考え方に基づく呼び方によるものです。

この記事では、それぞれの言葉の定義や背景、判断基準を丁寧に整理しながら、「自分の扱っている作品や、興味のある品はどこに当たるのか」がすぐにわかるよう解説していきます。伝統工芸や手仕事の世界をより深く理解したい方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

(引用元:田村七宝工芸

① 伝統的工芸品の意味・定義

まず、最も特徴的かつ正確な定義を持っている「伝統的工芸品(でんとうてきこうげいひん)」の意味・定義について解説します。伝統工芸品の中でも、「伝統【的】工芸品」として表記のある品物についてであり、この【的】の語が含まれるか否かで定義が変わってくるのがポイントです。

「伝統的工芸品」とは

伝統的工芸品とは、経済産業大臣が「伝統的工芸品」として指定したものについて指す用語であり、伝統工芸品と銘打たれているものでも経済産業大臣による指定のない品目は、伝統的工芸品にはあたりません。

そこには日本の制度上の厳密な定義(日本/経済産業省)が存在し、2025年10月現在では243品目が該当します。

具体的には、伝統的工芸品産業の振興に関する法律(昭和49年5月25日法律第57号)(通称:伝産法)に基づき、以下の5項目すべてを満たすことが要件となっています。

  1. 主として日常生活の用に供されるもの(観賞専用ではない実用品が中心)
  2. 製造過程の主要部分が手工業的であること(手仕事が主要であること)
  3. 伝統的な技術または技法により製造されること(継承された技術を用いること)
  4. 伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられていること(具体的には100年以上の使用実績が要件の目安とされる場合がある)
  5. 一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又は従事していること(地域産業としての広がり)

上記を満たし、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を「伝統的工芸品」と呼ぶのです。伝統的な技術・原材料・地域性・手工業性・実用品性など複数の条件が揃っていることで、明確に伝統性を継ぐ工芸品として確立された区分と言えます。

実務的ポイントとしては、伝統的工芸品は法的指定があり、公的マーク・支援制度の対象となります。以下は、経済産業大臣指定伝統的工芸品のシンボルマークです。

② 伝統工芸品の意味・定義

次に、「伝統工芸品(でんとうこうげいひん)」の意味・定義について細かく解説していきます。

「伝統工芸品」とは

伝統工芸品とは、伝統的な技法や素材によって、主に手作業によって作られている実用品を中心とした工芸品のことを広く指す用語。日常では経産大臣指定の「伝統的工芸品」と同義で使われることが多いですが、厳密には指定があるかないかで区別されます。

伝統工芸品・伝統的工芸品の違い

国の指定を受けていないものの、伝統的工芸品と類似の特性を持つ工芸品、伝統性を感じさせる工芸品などは一般的に伝統工芸品と呼ばれます。「伝統的工芸品」という用語についての正確な定義が広く知れ渡っていないため、日常的には伝統的工芸品として指定されている243品目も、一律に「伝統工芸品」として言及されることがほとんどです。

包含関係としては、「伝統工芸品」と呼ばれる複数の工芸品の中に、経済産業大臣指定の「伝統的工芸品」243品目も含まれている、ということになります。

③ 工芸品の意味・定義

これまで「工芸品」という言葉を用いて説明してきた箇所もありましたが、そもそも工芸品とは何を意味するのでしょうか?次に、「工芸品(こうげいひん)」の意味・定義について解説していきます。

「工芸品」とは

工芸品とは、主に高度な手仕事を通じて生み出される、実用的でありながら美しさも兼ね備えた品物のこと。工業と美術の両面で、各地域の文化や歴史を今に伝えてくれるものとしても評価されています。

そもそもの「工芸」の意味

1.語源

  • ・「工」=技(たくみ)、職人の技術や制作行為
  • ・「芸」=技法・美的表現・感性

つまり「工芸」は、実用的な技(工)に、美的表現(芸)が加わったものを指します。単なる道具や商品ではなく、美しさを備えた実用品という意味が根底にあります。

2.一般的定義(辞書・百科事典における意味)

美術の一部門。実用品に美的な形態を与えることを目的とする造形芸術。

広辞苑

実用的な目的をもちながら、同時に美的価値をそなえる造形的な制作活動、またはその作品。素材・技法・用途によって多様に分かれる。

日本大百科全書(小学館)

このように辞書解釈においても、「工芸」とは、実用と美の融合を目的とする人間の手仕事・造形活動のことを指しています。

④ 民芸品の意味・定義

また工芸品に似た用語として、民芸品という言葉もあります。次に、「民芸品(みんげいひん)」の意味・定義について解説していきます。

「民芸品」とは

民芸品とは、民衆の生活から生まれた実用的で素朴な手工芸品。無名の職人による手仕事によって作られ、地域の素材や伝統を生かしながら、「用の美」と呼ばれる暮らしの中の美しさを大切にした品を指します。

「民芸」の定義/概念(民藝運動の文脈)

「民芸(民藝)」は1920〜30年代に民藝運動の父・柳宗悦、陶芸家の浜田庄司、河井寛次郎らによってつくられた言葉で、日常生活の中で用いられる日用品の自然の美を重視した考え方から生まれた「民衆的工芸」の略語。

特定の芸術家による作品ではなく、民衆の日常生活の中から生まれた実用的な美を持つ工芸品を指し、高価な芸術品ではなく、庶民が使う器や道具など、無名の職人による手仕事に宿る美しさを重視するのが特徴です。これは柳宗悦によって提唱された思想で、「用の美」と呼ばれる考え方に基づいています。

民芸品は、生活に根ざし、自然素材を生かし、伝統的な技法を守りながらも、日常の中で使われ続けることに価値があります。民芸とは、生活と美が調和した暮らしの中の芸術であり、華美ではなく素朴で誠実なものづくりを尊ぶ文化的理念を指します。

民芸品の特徴(実務的な見分け方)

  • ・生活道具としての実用性がある(茶碗・ざる・布など)
  • ・地域的・素朴な作風・素材の素直さを重視
  • ・作者個人の「作家性」を前面に出す工芸(=現代工芸作家作品)とは視点が違い、生活に根ざすもの

⑤ 手芸品の意味・定義

また、工芸品、民芸品に似た用語として、手芸品という言葉もあります。次に、「手芸品(しゅげいひん)」の意味・定義について解説していきます。

「手芸品」とは

手芸品とは、主に手先の技術によって作られるもの全般(刺繍、編み物、ぬいぐるみ、パッチワーク等)のこと。一般的に木工や陶芸などは含まず、布や糸を用いて手元の範囲で裁縫できる実用品や美術品までを指します。

手芸にも明確な定義はない


「手芸(handicraft)」は、辞書的には「手先でする技芸。衣服や家庭用の実用品を製作する行為およびその成果物」とされ、趣味的作品〜産業的製品まで幅広く含みます。法的に特別な指定がある用語ではなく、いわゆるパッチワークや裁縫といった「手芸」で想像される範囲のものを手芸品と呼びます。

⑥ 美術品の意味・定義

次に、「美術品(びじゅつひん)」の意味・定義について解説していきます。

「美術品」とは

美術品とは、芸術的な表現や鑑賞を目的として制作された作品のこと。絵画・彫刻・工芸などが含まれ、実用性よりも美的価値や創造性を重視して作られるものを指します。

美術品の資産的定義

法律や文化行政上の美術品は、広く「絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産」を指すなど、美術的な価値を基準に分類される作品を指すことが多いです。(たとえば「登録美術品」制度では『歴史上・芸術上又は学術上特に優れた価値を有する作品』などが要件)。観賞用としての価値・歴史的/学術的価値が高い作品を指す点が特徴です。 (参考:文化庁

⑦ 美術工芸品の意味・定義

次に、少し用途が限られる「美術工芸品(びじゅつこうげいひん)」という用語のの意味・定義について解説していきます。

「美術工芸品」とは

「美術工芸品」とは、文化財保護法で定義される有形文化財の一種で、建造物を除く絵画・彫刻・工芸品・書跡・典籍・古文書・考古資料などの美術的かつ工芸的価値をもつ有形の文化的所産を指します。

文化資料として歴史的価値を持ち、特に芸術性・造形性が高く鑑賞価値をもつ作品が含まれています。文化的・歴史的意義のあるものとして保護の対象となり、その中から文化審議会の審議を経て、重要な価値を持つものは国宝・重要文化財などに指定されます。(参考:文化庁

「美術工芸品」という呼称の一般的な意味合い

上記のように、文化財保護法によって定義された意味合いのある「美術工芸品」という用語ですが、広く使われている意味合いとしては、「美術と工芸の両面を併せ持つ作品」を指すことも多いです。

「美術」「工芸」をそれぞれ想起した言葉として、工芸品の中でも、意匠・造形・装飾性に優れ、美術品として鑑賞の対象となる作品を意味し、文化財としての意味合いと混ざって使われます。

比較まとめ

  1. 伝統的工芸品経済産業大臣により指定された、伝統を継ぐ工芸品(実用的・手工業的・伝統技法・地域性などの明確な5要件を満たす必要がある)
  2. 伝統工芸品:制度指定の有無にかかわらず、伝統的な技術で作られる工芸全般の広義的な呼び方
  3. 工芸品:主に手仕事による実用的かつ美も兼ねた品の呼び方
  4. 民芸品:生活に根ざす用具の美を重視した文化的分類
  5. 手芸品:主に布や糸などを用いた手作り作品全般の呼び方
  6. 美術品:芸術的な表現や鑑賞を目的として制作された作品
  7. 美術工芸品:文化財保護法によって保護対象となる文化財、または広く芸術的価値を併せ持つ工芸品

出典元(代表)

  • ・経済産業省「伝統的工芸品」説明ページ・指定制度説明(伝産法関連)経済産業省
  • ・経済産業省説明資料(伝統的工芸品に関するPDF、指定要件の解説)文化庁
  • ・日本民藝協会・民藝運動の解説(民芸の概念)日本民藝協会
  • ・辞書・百科事典(手芸の定義)ウィキペディア
  • ・文化庁(登録美術品など、美術品に関する制度的説明)文化庁
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