象嵌(ぞうがん)とは、金属に金属を埋め込む工芸技法のひとつとなります。
金属の生地に色の異なった金属をはめ込み、それぞれの色彩や隆起などで模様を表現するのが象嵌(ぞうがん)です。象は「かたどる」、嵌は「はめる」と言う意味で、一つの素材に異質の素材を嵌め込む技法を指します。
金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌等があります。金属象嵌の場合,素地となる銅,鉄などの金属面を彫って金,銀,赤銅(しやくどう)などを嵌め込むことが多いです。
シルクロード経由で飛鳥時代に日本に伝わったとされ、江戸時代には京都などに優れた職人が多数生まれ日本刀の拵えや甲冑、鏡や根付、文箱、重箱などに腕を振るいました。
おもしろくて美しい、多様な金属工芸の世界
金属は古くより「金・銀・銅・錫・鉄」の五種類が代表的なもので、これらは「五金」といわれ金属工芸の主要な材料として用いられてきました。象嵌(ぞうがん)は、そんな多種多様な金属工芸のひとつです。
刀剣、甲冑などの装飾にも使われる装飾美
たとえば硬く堅牢性にすぐれていることから、仏像や刀剣、甲冑などの武器の製造に用いられたりしました。オシャレ…!機能的でありかっこいい、最高にクールな工芸ですね。
その他にも、置物や花器、装身具など、美術工芸品の分野において、金属工芸ならではの美しい世界を築きあげています。金属工芸の技法には、おおまかに、“彫ったり嵌めたりする「彫金」の技法”“板状の金属を立体に加工する技術「鍛金」の技法”“金属を溶かして造型された鋳型に流し込む「鋳金」の技法”があります。それらの技術によって、溶けたり延びたりといった金属個々の特性をうまく利用し、あらゆる金属製品が創りだされています。
日本三大象嵌(ぞうがん)!肥後象嵌、京象象嵌、加賀象嵌、その特徴は?
職人が減り後継者不足ですが、日本三大象嵌と言われるのはこの3つです。
「肥後象嵌(ひごぞうがん)」-武家文化を反映し上品さが特徴-

肥後象嵌(ひごぞうがん)とはおよそ400年程前から、熊本県熊本市を中心に作られている金工品です。肥後藩主細川三斎公が近江国より鍛冶平田彦造をむかえ武具を作らせたことにはじまります。
肥後の象嵌の作風は、武家文化を反映した上品で奥ゆかしい美・「雅美がび」をあらわすのもが特徴。地となる鉄には塗料のようなものを一切使わず、故意に錆びさせることで得られる錆色さびいろを活かした漆黒色に仕上げます。重厚感を感じさせる漆黒の地鉄に金や銀で表現される模様は、派手さをおさえた上品な美しさを漂わせます。この伝統技術を保存するため昭和38年8月に肥後象嵌技術保存会が結成され、平成15年3月(2003年3月)には肥後象嵌が経済産業省から伝統的工芸品に指定されました。
「京象嵌(きょうぞうがん)」-繊細で優美なデザインが特徴-

京象嵌は室町時代中期、後藤家という金工家が京都にあり、象嵌の技術はそこから広まったと言われています。その後、幕末に駒井美喬が京都に象嵌を復活させ刀剣類の装飾に加工し珍重されてきました。格式高い伝統的な図柄が多いのも特徴です。
そしてその優美さの秘密は「布目象嵌」という独特な技法から生まれます。布目象嵌は、地金の表面にタガネという専用の鏨を使って非常に細かい刻みを入れ、その溝に金や銀を打ち込んでいく手法で、縦横に敷き詰められた溝がまるで布目のようにみえることからその名がつきました。しかし、この布目はルーペがなければはっきりと確認できないほど実に微細なものです京象嵌の良い点は、とても薄く軽く仕上げられる点です。
なお、京象嵌は京都府知事から「京都府伝統工芸品」の指定を受けています。
「加賀象嵌(かがぞうがん)-斬新で豪華、自由なデザインが特徴-

加賀象嵌の歴史は、16世紀末、加賀を支配した前田家が京都方面から技術を導入して始まりました。藩は、それぞれ優れた技を持つ者を御細工人に登用し、奨励策によって磨かれた技能は、町方の職人たちにも強い影響を与えて隆盛を極め、加賀象嵌は、加賀特産の金工品として名声を博しました。
政府による明治6年(1873)のウィーン万国博覧会出品を契機として、海外輸出向けの大型花器などの製作にその力量を発揮しはじめます。こうして加賀象嵌は、これまでとは全く異なる造形として受け継がれ、命脈を保つのです。
加賀象嵌の華麗で洗練された文様には、傑出した意匠感覚の鋭さがありますが、この優れた表現は精緻な技法に支えられています。金属素地の文様部分を鏨<たがね>で表面より底部を広げて彫り削って(このことをアリを切るという)、別の金属を嵌め込んで打ちならします。
すると、文様となる金属が表面より内部で広がった状態となって外れなくなるのです。この接合方法を加賀ではとりわけ精密に行って、豊かな表現を可能にするとともに、堅牢な仕事としての評判を高めました。なかでも「鐙」は、加賀象嵌の代名詞でもあり、その卓越したデザインの斬新さと豪華さに加え、加賀象嵌は絶対に外れないと言われるほどの技の入念さによって知られています。
かわいいアクセサリーの象嵌も!若手職人の取り組み、作品をご紹介
後継者不足で希少工芸である象嵌。そんな現代にも、伝統を守りながらさまざまな展開をさせている若手職人さんがいます。今回は京象嵌の中嶋 龍司さん、加賀象嵌の笠松加代さんをご紹介させてください。
京象嵌師 中嶋 龍司さん
「中嶋象嵌」の三代目職人、中嶋龍司さんは中嶋象嵌独自の「布目象嵌」という技法で手作業で作品を作り続けているそうです。
最近では新シリーズ、ZINLAYを発表されたそうです。モダンで粋なスタイルをテーマにしているそうです。かっこいいですね!
加賀象嵌師 笠松加葉さん
石川県の希少伝統工芸である加賀象嵌の技法を中心に作品を制作されている笠松加葉さん。
日常的に使える加賀象嵌を提案したい」とも語り、普段の生活に溶け込んで使えるジュエリーや帯留などを中心に制作。自身もその日のファッションに合わせてさりげなく身に付けたりしている。使う人の気持ちがほんの少しでも豊かに彩られるようにと願いながらとのことです。
「使用して初めて完成する作品」をテーマに、作品そのもので完結するのではなく、使用する人のイメージを重ねやすいよう、余白のある作品制作を心がけている笠松さん。素敵ですね!(ペンギンかわいい…)